2021年に東京海上日動火災保険からTeaRoomへと転職した梶原康太さん。現在は、Tea事業部部長として、茶販売部門を執り仕切りながら、TeaRoomの製造部門を担うTHE CRAFT FARMにて、静岡の茶農家・加工会社・茶商と日々向き合う仕事をしています。
「人間の根源的な価値に関わる仕事ができている。そんな実感があります」
大企業からスタートアップへ飛び込み、静岡の茶生産地に移り住んだ梶原さん。その先で、得たという「確信」を聞きました。
静岡に根を張り、クラフトの未踏を登る
──TeaRoomと出向先のTHE CRAFT FARMでの仕事を兼務している梶原さんですが、まずはTHE CRAFT FARMについて教えてください。
THE CRAFT FARMは、TeaRoomと静岡の茶商「カクニ茶藤」が共同出資で2019年に立ち上げた合弁会社です。設立と同時に静岡に移住したTeaRoom共同創業者の水野が代表を務めています。設立の目的は、TeaRoomがお茶の販売者、仲介者に留まらず、一次産業へと参入することでした。実際に土に触れて、茶葉の生産を担うべく、運営母体の解散で使われなくなった静岡市大河内の荒茶の生産工場を継承し、周辺農家さんとの生産拠点として再生しました。TeaRoomの製造部門を担っています。
THE CRAFT FARMのミッションは「世界の知恵を集約し、クラフトの未踏を登る」です。例えば、TeaRoomと東急ハンズで商品開発を進めた『プレミアム国産紅茶THE CASK AGING』。国産ウィスキー樽で熟成させるという国内初のコンセプトの商品でしたが、THE CRAFT FARMがその茶葉のウィスキー樽での熟成技術のR&Dと製造を担いました。このような日本全国、世界に埋もれている生活にまつわるクラフト技術を集め、それらの英知によって、生活をアップデートするような事業を手がけています。
THE CRAFT FARMでの私は、その経営に関する業務を中心に、生産・製造・開発・経理・財務・営業と、あらゆる業務を担当。静岡の茶農家、加工会社、茶商という静岡のプレイヤーとの連携体制を整備して、地域産業の復興と発展に取り組んでいます。
──TeaRoomでのTea事業部部長としての仕事内容についても、教えてください。
茶販売部門のマネジメントに注力しつつ、お茶を届けるための営業戦略の立案、運営も行なっています。そして、お茶による価値創造の可能性を探求するために、行政やあらゆる領域の企業と接点を持ちながら、新規需要の開拓にも、挑戦しています。
自分発で、価値を生み出す側の人間に
──TeaRoomとの出会い、転職までのの経緯を教えてください。
前職は、新卒で入社した東京海上日動火災保険でした。法人営業担当として、銀行、県警から商工会、専門商社まで、様々なジャンルの企業に対して、保険の拡充と保険の最適化を提案する仕事をしていました。
自分で選んで入った会社ではありますが、働く中で湧いてきたのは、「この仕事、別に自分でなくてもいいんじゃないか」という思いでした。
損害保険は、成熟産業です。その最大手が持つ秀逸なビジネスモデルの中で、私がやっていた仕事は、言ってしまえば「大手4社によるパイの奪い合い」。これは、大手企業で働いた経験がある方なら”あるある”だと思いますが、当時の自分には、自分の行動で誰が喜んでくれている実感が持てないことに不満があり、よくできた構造の中で、行動すらもできないことに、もどかしさを感じていました。
そこからなんとなく「自分の行動と届ける価値がリンクする仕事をしてみたい」と思うようになりました。今、振り返れば、「自分発で価値を生み出したい」という”欲”ですね。そんな時に、学生時代から友人だったTeaRoom現CFOの近藤が、TeaRoomの話を私にしてくれました。
実は、TeaRoomのことは、学生時代から認識していました。しかし、私は就活でベンチャーを全く視野に入れないタイプの学生で、急須でお茶を飲むような習慣もない茶と無縁の暮らしだったので、「あ、別の世界の話だな」と聞き流した記憶があります。
その情熱に、ほだされて
──改めてTeaRoomの説明を受けた時、どんな印象を受けましたか。
社会人3年目になって話を聞くと、茶業界という一般的には課題が多く、成長の見込まれていない「斜陽産業」として扱われている領域に、茶の生産という一次産業から関わりを持ちながら、挑戦しようする姿勢に魅力を感じました。
確かに、直面する課題だけをみれば「斜陽産業」です。それでも、お茶には、文化面、プロダクトとしての嗜好性をはじめ、いろんな武器がある。TeaRoomはそのお茶の多面性の価値に気づいている存在で、その価値を最大化しようと、文化面でも、産業面でも、全ての要素を揃えにいくことに、躍起になっている会社なんだな、と感じたことを覚えています。その時の近藤の話ぶりには、率直に可能性を感じました。というよりも、可能性しか感じませんでした。
なにより、「この人たちは、自分発で価値を生み出す側の人間なんだ」と思いました。今は茶産業が「斜陽産業」として扱われて、お茶が持つ価値がひらかれていないなら、ひらきにいけばいい。そういう感覚で事業をつくっている。行動すらできない、成熟産業のほぼ完成された仕組みの中にいた自分の仕事の対極に思えました。
最終的な転職の決め手は、CEO岩本の目指す世界に強く共感できたからです。四谷3丁目のバーで、岩本に『どんな世界にしたいのか』と直球でたずねると、『人と人がリスペクトしあう社会』とすぐに答えが返ってきました。私の考えとドンピシャでしたし、創りたい世界に向けて働くことに魅力を感じて、転職しました。
「これをやりたい」本能からの確信
──入社後、仕事のやり方など、自身にはどんな変化がありましたか。
「お茶」が、社会に本質的なバリューを発揮できるものだと確信できたのが、ここ2年間の大きな変化でした。静岡に移住しお茶をこの手で作り、静岡の茶農家、加工会社、茶商という地域のプレイヤーとの濃密に関わりながら、日本全国、世界の方々と茶を接点にご一緒すればするほど、「お茶を飲む空間」や「お茶を飲むという行為」には、今の世の中をよくできる可能性が溢れている、と実感しました。本能から「自分は、これをやりたい」と思えるようになったと思います。「お茶」は、人間の本能に訴えるプロダクトであり、体験をつくれるものだと、今は確信しています。
仕事をする上で、世の中へのアンテナが格段に高くなったと思います。「お茶にはひらかれていない可能性がある」という前提に立つと、一見お茶とは関係のない最新のテクノロジーや他の産業も「掛け合わせれば、新しい価値を生み出せるんじゃないか」という目線でみるようになりましたね。仕組みが整った成熟産業からスタートアップ、しかも茶産業にくれば、自分が止まっていては、何も起きません。自分発で価値を出さないといけないので、考えるしかないんです。まさにこれは、自分が欲していた「自分で考えて、行動する機会」そのものだと思っています。
──現在、注力している業務を教えてください。
私たちの工場のある静岡・本山のお茶と、社会の新しい接点を探しています。分かりやすい業務でいえば、営業。自分たちの作ったお茶を、都内を中心に全国のカフェ、ホテル、レストラン、ラウンジ系のバーなどで扱っていただくために、動いています。コミュニティスペース、共創空間など、今はお茶を置いていない場所に、お茶を置いてもらえるように仕掛けています。
こうした業務でお茶と社会の接点を増やすことで、世の中に「不便益を体験できる場所」を増やしていきたいです。「急須でお茶を淹れて、飲む」という行為は、ただ喉を潤すためのものではなく、同時に、日常に余白の時間をつくるものだと思っています。もちろん、 失われた習慣を再び日常にインストールしていくことは簡単ではなく、価値の認知から、アプローチしていかなければいけません。産地での生産現場から販売、体験設計まで、あらゆる段階でお茶に触れている自分たちだからこそ、着想できる「習慣化のアイデア」があると考えています。
根源的な価値があると信じて
──梶原さんがTeaRoom、THE CRAFT FARMで果たしたい目標を教えてください
「お茶を淹れると、なんかホッとする」。ホッとする理由は様々あれど、お茶を飲むということには様々な効用が潜んでいると感じています。例えば、寒さは、原始の時代から生命の危機を想起させる要因かと思いますが、反対に「温かいものを飲む、触れる」ということは、安心につながります。人は、その状態変化を無意識的に感じ取り、相手を好意的にみる。つまり、お茶を飲むことは、とても単純な行為ですが、「人間の本能」にかかわる部分に触れることができるものなのだと感じています。
自分自身、今はTeaRoomとTHE CRAFT FARMで、人間の根源的な価値に関わる仕事ができていることを嬉しく思っています。自己分析すれば、自分には「熱さ」だけがあるんです。自分がいいと思ったものに対しては、極端に熱量が出て、取り組めるタイプ。本当に、わかりやすい人間なんです。とにかく世の中に、お茶の可能性を広げていきたい、そのための接点を増やしていきたい。同時に、価値あるものを提供していくことで、意識せずとも、当たり前に、お茶が現代を生きるひとの横にある未来を創りたい。そこに熱量を持って、取り組んでいます。
私たちの強みは、茶産業の中のみならず、様々な産業の上流から下流まで、あらゆるプレイヤーと接点があることです。その強みを活かして、既にある機能のリプレイスだけでなく、一つでも多くの新しい価値を創造することに挑戦したいです。
新たな価値を創り出すこと。そして、存在しているが、光が当てられていない潜在的な価値をひらくこと。このTeaRoomらしいアプローチで、「豊かさとは何か」を、現代の人間、現代の社会へ、問いを投げかけ続けるように、仕事をしていきたいです。